「二〇XX年の地球より」

首藤 玲那

知的能力が高く繁殖能力も優れている恐ろしい寄生体によって、宿主はひどく蝕まれている。この病毒性の高い寄生体は気がついていないのか。宿主の衰弱は寄生体の滅亡のカウントダウンということに。
 宇宙物理学者のスティーブン・ホーキング博士は二〇十七年五月、英国公共放送BBCのドキュメンタリー『Tomorrows World/Expedition/New Earth』の中で、この寄生体の歴史は「事実上あと百年しか残されていない」と警鐘を鳴らしている。一方、米国科学誌『原子力科学者会報BAS』において、この宿主の寿命は週末時計で換算すると、残り百秒だと警告されている。
 もうお気づきだろう。この寄生体とは人類のことで、宿主は地球を指している。生物は他の生物の力を借りて生きている。若干の利益を互いに享受しあいながら、一定の均衡を保ち関係性を継続している場合は問題ない。しかし、地球は人類のせいで死に体に近い状態だ。原因は気候変動、疫病、国と国との争い、核兵器の存在など複合的で、解決していくには長い時間を要する難問ばかりだ。
 ホーキング博士は人類の生き残りのため、他惑星への移住を提唱している。確かに人類の存続という観点からは、滅びゆく地球に居座り続ける選択しは愚かなのかもしれない。だが、今の人類の生き方や考え方を改めず他惑星に移住しても、人類はまた惑星を使い捨てにするのではないか。内政的かつ外政的に多くの難題を抱える状況下で、人々は各々の利益を追究するあまり協力し合えていない。
 人類は地球から多くのものを搾取し、そうして得たものから利益を最大化することに努めてきた。一定の利益を吸い取ったら効率よく次のターゲットに乗り換える。自分にとってメリットが大きいかどうかで判断したらいいとの助言に、私は頷けない。なぜなら我々には責任があるからだ。
 他惑星への移住計画も必要なのは事実だろう。しかし、まずは地球を元気にしようではないか。海空陸を健康にし地球を生き返らせるのだ。小さなことと呆れられるかもしれないが、例えばポイ捨てのない社会を作りたい。あなたに大切な人がいるように、その汚れた森や海で困っている人は誰かの大切な人だ。将来、あなたの大事な人達も困る可能性があると考えれば、ゴミの分別や再利用に対し積極的に取り組めるだろう。私は更に欲する。プラスチックを必要としない世界を作りたい。容器や道具などのプラスチック製品の代わりに、たんぱく質やカルシウムといった環境負荷が比較的低く、耐久性や強度もある代替品を開発できればいいと熱望する。
 そしてこれから披露するのは大人になった私の未来日記だ。私の大きな夢を最後に日記という形でここに記しておきたい。
 二〇××年〇月、ようやくこの日を迎えられた喜びと興奮に満ち溢れていた。『宇宙資源ごみ分別プラント』の運用がいよいよ開始されるのだ。米国等の複数の国が協力して建設した同プラントは壊れた衛星やロケットなどのデブリの回収とともにリサイクル用として資源分別を行う拠点として建てられた。ここに辿り着くまでも大変な道のりだった。まず磁力と電力で大型デブリを回収する機材、小型デブリを収集しながら宇宙圏内で燃え尽きる小型衛星を開発した。最も困難だったのは集めたデブリを一時的に保管し再利用可能な状態にするプラントの建設だった。同プラントのアジア諸国責任者として派遣されたが、不安要素がないわけでもない。宇宙初のプロジェクトだし、国同士の利権争いもある。でも「成功させたい」という気持ちは皆一緒だ。
 この壮大なプロジェクトのきっかけは子供たちとの会話だった。宇宙での仕事を紹介する為、私はその日、とある小学校を訪問していた。いつも通り大まかな仕事内容を伝え、デブリ問題について簡単に話した。質問時間になり、最初に挙手した少年がこう尋ねた。「家の中でも外でもゴミは資源別に捨てている。なぜ宇宙では誰もそれをしないのか。地球をキレイにする為に毎日ゴミをできるだけ少なくしてリサイクルするよう工夫しているのに。あちこちに散らばっている宇宙ゴミは回収して、再生可能な状態にしてみてはどうか。」
 その理屈は宇宙では通じないと聞き流すこともできたはずだが、私の心に何かがひっかかった。それは幼い自分の言葉だったかとぼんやり考え込む私を尻目に、司会者は次の生徒を指名した。その少女は私をちらりと一べつし「宇宙にはゴミ収集車も焼却所もない。だから無理なのかもしれない」と、少年に応じた。すると先程の少年がこう叫んだのだ。「だったら火星に焼却所を造ろうよ。昔はプラごみだらけの海を様々な工夫できれいにした。空でも同じようにできるはずだよ」と。